【感想】宇佐見りん『推し、燃ゆ』熱を持って推している。——つもりだった。
芥川賞の候補作だからということで手に取った本書に、圧倒された。
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宇佐見りん『推し、燃ゆ』 書籍情報
推し、燃ゆ
宇佐見 りん(著/文)
発行:河出書房新社
四六判 128ページ
定価 1,400円+税
ISBN 9784309029160
Cコード C0093
初版年月日 2020年9月11日
第164回(2020年下半期)芥川龍之介賞候補作品
宇佐見りん『推し、燃ゆ』 感想
物語の序盤で、とても共感したフレーズがある。
「推しは命にかかわるからね」
宇佐見りん『推し、燃ゆ』 本文より
生まれてきてくれてありがとうとかチケット当たんなくて死んだとか目が合ったから結婚だとか、仰々しい物言いをする人は多い。
全力で首肯した。
いるいる、そういうオタク、会ったことある、周りにいる、というか自分もだ。
推しの笑顔は天使だし、握手したら妊娠するし、生きてるだけで尊い、推しがいないと生きていけない。
なんて言いがち。
我々オタクは——なんて主語を大きくしてはいけないね。
オタクである私は、推しの素晴らしさ表すのにそうやって仰々しい比喩を用いる。
わざと誇張しているのではない。本当にそれくらいの熱を持って推している。
——つもりだった。
本書の主人公あかりは、僕なんかとは比べ物にならないくらいの熱量で、推しを推している。
一般的なオタクのように「生活があって推しがある」とか「生活のなかに推しがいる」とか「推しのために生活している」とか、そういうレベルではないのだ。
推しがいるから、なんとか社会で生活できている。
そういうレベル。
生きづらさを抱える主人公が、なんとか社会で生活するよすがが「推し」なのだ。
となると、ただ単にオタクとして共感しながら読むというわけにもいかなくなる。
あかりの生きづらさは、簡単に共感できると言ってしまうにはあまりに重い。
考えさせられる話だったな。
と思ったところで、自分が思考停止していることに気がついた。
考えさせられるって、何を。
何を考えたら良いかわからないけど、なんか圧倒されて、考えさせられるなーに着地って、なんだそれ。
と思うんだけれど、本当に何をとっかかりに考えていけばいいのか、見つからない。
文学的素養の無さを突きつけられるようである。
まあ無いもんは仕方がない。
考えさせられる、考えたいと思ったその気持ちを大切に出来るように、もっといろんな作品を読んでみようと思う。
というのもとても久しぶりに触れたいわゆる「純文学」の作品だったのだ。
久しぶりに読んだ純文学作品が本書で良かったなと思った。
純文学なのに読みやすいのだ。
純文学なのに
「なのに」なんて、そんなに数を読んでいないのに偏見を持っていてクソみたいだけれど、一般的にも言われている(気がする)から使わせてもらったけど、本当に読みやすかった。
純文学ってなんとなく「難解で重厚な文章で……」みたいなイメージだった。
けれど本書はとても「読みやすい」語りで書かれていた。
語りが読みやすいからといって、物語自体が軽薄ということではない。
……なんて言い方をすると軽い読み物がよくないみたいな感じがするから何て言ったらいいか難しいけど。
とにかく読みやすく、しかし深く考えさせられる、そんな作品だったように思う。
まとめ、こんな人におすすめ
というわけで感想——というにはなんともとりとめのない独り言みたいなもの——はこんな感じ。
ものすごく読書家であるとか、純文学に造詣が深いとか、そういう者ではないのに他人様におすすめするなんて差し出がましいけれど、こんな人におすすめというのを挙げさせてもらうとすれば、まさにこんな僕みたいな人におすすめ。
- オタク
- 純文学って気になるけど難しそう
- 純文学むかし挫折しちゃったんだよね
- 話題の本を読んでみたい
そんな人がいたら、ぜひ。
軽妙な文章とポップなテーマでするすると読ませてくれる。
というわけで以上、【感想】宇佐見りん『推し、燃ゆ』熱を持って推している。——つもりだった。でした。ではまた。