【感想】天沢夏月『ヨンケイ!!』普遍的な青春のきらめきを描く
「青春スポーツ小説」——僕が一番好きで、しかし最近はご無沙汰してしまっていたジャンルです。
やっぱり青春スポーツものはいい!そう思わせてくれる作品でした。
天沢夏月『ヨンケイ!!』書籍情報

ヨンケイ!!
天沢 夏月(著/文)
発行:ポプラ社
四六判 308ページ
定価 1,500円+税
ISBN9784591168868
CコードC0093
2021年1月12日 第1刷発行
天沢夏月『ヨンケイ!!』あらすじ
舞台は離島の高校の弱小陸上部。
弱小どころか頭数すら揃わなくて、ここ数年は4×100mリレー(四継(ヨンケイ))のチームを組むことすら叶っていない。
そこに転校生がやってきて、奇跡的に4人の男子スプリンターが揃った。
けれど、それは人数だけの話。
それぞれが悩みを抱えるこのリレーチームの、チームワークは最悪。
しかし一人一人が、自身の悩みやチームメイトとぶつかる中で、チームはだんだんと変わっていく……。
天沢夏月『ヨンケイ!!』のここが好き
本書は「一走、受川星哉」「二走、雨夜莉推」「三走、脊尾照」「四走、朝月渡」の四章からなる。
リレーの第一走者の視点から始まり、バトンを繋ぐように語り手が交代し、物語は進んでいく。
コンプレックスやトラウマなど、四人それぞれが抱える問題は、あえて悪く言えば「ありふれた」ものだ。
人なら誰でも、特に思春期なら誰もが抱えるであろう問題に、しかしまるで自分だけの一大事であるかのように思い悩む。
そこが、めちゃくちゃ好きだった。
ともすれば「ありがち」になってしまいそうなそれぞれの悩みや不安、問題と、それぞれの視点でとことん対峙し、突き詰め、悩み抜く。
そうすることで「ありがち」ではとどまらない、「普遍性」となって読者の心を揺さぶってくる。
僕はもうアラサーになって、この主人公たちのようにピュアに問題と向き合うことは出来ないけれど、それでも、かつて自分の中にあった、そして今もありつづけている悩みや不安や問題に響いて、寄り添い、すこし心を軽くしてくれるような、そんな感じがした。
また、そうやってそれぞれの問題と向き合うと同時に、チームメイトともぶつかり、向き合う。それは相互に作用し合っていて、どちらか一方だけでは成立しない。
そんな風にして傷つきながらも成長していく四人が、そして同じ陸上部員の仲間たちが、少しずつチームになっていくその姿も美しくて魅力的だ。
主人公たちと同世代の、高校生くらいの時に読めたら面白かっただろうな、と思う反面、今だからこそ感じられるノスタルジーが味わえて、それはそれで得がたい体験だったと満足している。
最後にキャラ読み
ここまで真面目に(当社比)語ってきて最後にキャラ読みかよ。ってなるかもですが、キャラ読みします。だって可愛かったんだもん。
個人的な一推しは、エース区間二走を走る雨夜くんです。小柄でまっすぐで少し引っ込み思案というかなんというかな天才肌。いや絶対かわいいよこの子。
けど、そんな彼からバトンをもらう脊尾くんも、いいんです。影のあるイケメン。絶対かっこいいです。
それからそれから不器用な受川くんと朝月くんも、なんか愛おしくなってくるし、紅一点の酒井ちゃんもいい子。
あと、顧問のサトセンこと佐藤先生もいい味出してて……。
ってなんだお前みんな挙げてるじゃんってなりそうですけど、そうなんです、みんないいんです。
ここに挙げきれなかったキャラクターも含め、登場人物がひとりひとり魅力的で。
そこも、本作の大きな魅力のひとつだと思います。
というわけで以上、【感想】天沢夏月『ヨンケイ!!』普遍的な青春のきらめきを描くでした。ではまた。